スポンサーリンク


FaceSearch

MoneyScript

2020年08月08日

日本の科学論文数が低迷するのも無理はない!? 研究させてもらえない研究者の実情

研究者なのに研究できない今の研究者

 「中国、科学論文数で首位 研究開発でも米国と攻防」という記事が日経に掲載されていました(リンク)。リンク先のグラフを見ると90年代は米国につぐ第二位だった日本が、今は中国とドイツに抜かれて4位になっているというお話です。

 勉三はコンサルタントになる前はメーカーで研究者をしていたのですが、この記事を読んで「無理もない」と思ってしまいました。なぜなら今の研究者は全然研究させてもらえないからです。

研究者を襲う雑務の数々

 企業研究者が実際に研究に割ける時間はおそらく1〜2割程度だと思います。しかも大企業になるほど割ける時間は少なくなります。なぜでしょうか。

 その理由として、研究をするために研究以外の様々な雑務が発生するからです。例えば、ある研究で危険な試薬を使う必要があるとしましょう。そのためには、研究計画を事前に作成し承認を受け、試薬も成分などの情報をメーカーに問い合わせ、社内のコンプライアンス担当部署などから承認をうける必要があります。また、試薬はそのままでは紛失したり所在不明になったりする可能性があるので、台帳や保管庫を設けて管理する必要も出てきます。それでも、ずっと保管されっぱなしではいつの間にか無くなっていたという可能性もあるので、定期的に研究所内の全ての試薬を棚卸し(全数点検)して確認することも必要です。また、試薬を廃棄処分する際にも含まれる成分により法規制に従って適切に処分する必要があり、そのためにまた申請と承認のプロセスが何度も続きます。

 雑務はこれだけではありません。研究で使う機器というのは何百万円から何千万円もする非常に高価なもので、企業の固定資産として管理され計上されます。そのため、これらの機器についても全て細かく管理することが必要で、管理手順書を1つ1つの機器に対して作成し、保守点検なども定期的に実施することになります。当然、さきほどの試薬の場合と同様に、これも年何回か定期的に棚卸し(全数点検)をすることになります。

 また研究にあたっては予算も必要になります。その予算の作成と申請も行う必要があります。どんぶり勘定ではいけませんので、予算を申請するというのは、来期の研究計画を立てて承認をもらう必要もあり、ここでパワポとエクセルを何度も弄って提案と修正を繰り返すことになります。

 研究に関連する雑務だけでもこれだけあり、それ以外の研究と直接関係のない雑務(社内の研修、IT周りの整備、清掃など)も含めると、業務量の8〜9割はすでに埋まってしまうというのが現状です。

雑務も必要なことだが研究者がやることではない

 昔は企業の研究所も割と適当でした。研究者は何かアイディアを思いついたら、その日のうちに上司に内緒で勝手に実験をしてたりしたのです。試薬管理とかも杜撰で、試薬を購入した人が異動や退職でいなくなると、引継ぎなども行われず、放射性同位体など非常に危険な試薬が紛失したりする企業もあったようです。

 どこの業界もそうですが、近年のコンプライアンス重視の流れにより、問題が起きるたびに対症療法的にルールを厳しくしシステムを導入し、そうしてどんどん「真面目」ではあるが「つまらない」研究所が増えていきました。

 確かにルールの遵守は必要かもしれませんが、ルールを厳しくしすぎたことで今の企業研究者は2つの問題に直面しています。1つは上でも既に書きましたが、雑務の時間が本業の研究を圧迫し、もはや研究者というより雑務屋さんになっていることです。

 確かに昭和の頃の無法地帯に戻るのは不可能かもしれません。しかし、雑務は誰でもできる部分が多く、研究者にしかできないことではありません。高学歴で修士や博士まで出て、給料も安くない優秀な研究者に、実験室の掃除や棚卸しをさせるのはとてつもないロスです。そんなことは誰でもできるのですから、もっと人件費の安い他の労働力を使って行うべきです。その分、研究者は研究に専念させるべきです。

手続き重視によりどんどん面白い研究ができなくなっている

 もう1つの問題は、面白い研究ができなくなっていることです。

 というのは、何かをするたびにいちいち計画書の作成と申請と承認が必要になるので、そこで成功する可能性の低い研究や、その研究者の担当分野と違う研究などは、上司にリジェクトされ通らない可能性が高くなっているのです。昔であればそんな承認なく勝手に実験をして、あとで面白い結果が出たら報告していましたが、今はそういうことが不可能ではないにしても、どんどん難しくなっています。

 このような傾向は中小企業より大企業で目立ちます。なぜかと言えば、大企業では問題が起きると現在のビジネスに与える影響が甚大だからです。研究よりもオペレーションを止めないことが大企業の最優先事項ですから、リスクをとって研究をするぐらいなら、何もしないで寝ていてくれたほうがマシというのが大企業です。研究者が何もしなくても十分に儲けはあり給料が払えますから。

 なので、最近の新しい研究成果は大企業よりも、少し規模が小さめの中堅どころやベンチャーで生まれることが多くなってきています。これらは大企業ほどガチガチにルールを縛っていないので、やや無法地帯ではありますが、大企業よりもお金はないが研究はしやすい環境と言えます。

追い討ちをかける働き方改革

 さらに追い討ちをかけるのが近年の働き方改革で、昔は不夜城などと言われた企業の研究所も、今は夜8時になれば誰もいなかったりします。これは労働時間の面だけでななく、研究は危険な作業を伴うことも多く、もし夜間に実験して怪我でもしたら命の危険に関わるからという理由もあります。まあ、その理屈なら昔もダメということになりますが、昔は多少怪我したり火災がおきても許されていたんですね。今はそんなことになったら大問題です。

 ですが、皆が夜6〜7時には帰ってしまうような研究所で、果たしていいものが生まれるのかという疑問もあります。こう書くと古い考えだ社畜だと叩かれてしまいそうですが、研究者というのは本来はプロフェッショナルであって、寝食忘れて没頭するということがあってもいいはずです。恒久的な長時間労働は問題ですが、やる気がある時はぐっと集中して深夜までやるというのがあってもいいでしょう。ですが、今は夜に残ってやるのでもまた申請が必要になり、よほどのことがないと上司の許可がおりません。

大学の研究者も雑務に追われている

 ここまでは企業研究者の話でしたが、企業研究者ほどではないにしても大学の研究者も雑務に追われています。

 一般の方がイメージするのは学生への講義などでしょうが、それ以外にも事務的な雑務が色々とあるようです。勉三が企業研究者の目からみて、最近の大学の先生たちは大変だなと思うのは、予算の獲得です。

 というのも、近年は競争的資金といって、大学の研究者も必死で予算を奪い取らないと、研究することができない時代です。そのためには申請書を書いたり、あるいは企業や他の研究室と組むしかないのですが、例えば企業と組む場合には契約書やら秘密保持契約やらが必要ですし、定期的に進捗報告なども行わないといけないので、手間が増えるのです。

 企業は雑務やルールが非常に多いものの、潤沢に資金があるという点では楽でした(これは研究時間と違って大企業ほど多く使える)。今の大学の先生方を見ていると、役人に頭を下げてお金をもらわないといけない、そして政治家からは金食い虫の役立たず扱いされているので同情を禁じ得ません。それでも雑務とルールが多すぎる企業研究職よりは、まだ大学はやりたい研究はできる環境だと思います。

最後に

 いかがでしたでしょうか。このように考えるとアメリカと中国が伸びている理由がわかるかと思います。アメリカはルールは厳しいですが、システムや人に投資をするので、日本よりも研究者は研究に専念し、さらに雑務をサポートするスタッフなども充実しているところが多いのです。例えば、アメリカのお金のあるラボなどは、論文に載せる図表を作る専門のスタッフなども雇っていたりします。

 また、アメリカは世界中から優秀な留学生が集まってくるので、彼らが研究の実動力となって高い成果を上げています。他にも、ベンチャーキャピタリズムが確立しており、産業連携が進んでいることなども挙げられるでしょう

 中国は国が発展し科学技術力が伸びていることはもちろんですが、先進国ほどルールが厳しくないので、研究がやりやすいというメリットがあります。研究所から色々とヤバイものが流出してそうで怖いのですが、科学の発展という意味では有利です。

 勉三の予測では、この日本の低迷は今後も当分つづき、論文数はインドにも抜かれてしまうと考えていますが、そうならないことを祈ります。

スポンサーリンク




posted by 勉三 at 00:28 | Comment(0) | TrackBack(0) | 理系
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/187783628
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック