2018年06月07日

AI研究者の視点:AIを上回る!? 藤井聡太の強手の真相

 ども勉三です。「藤井聡太七段『強すぎる』衝撃の一手 AIは悪手と評価の読み筋で勝利」というニュースがありました。以下引用です。

 AIを超える衝撃の一手が飛び出した。藤井七段は終盤、AIの評価で「悪手」とされた手を選択。さらに76手目に飛車を切り捨てるという衝撃の一手を放ち、観戦していた棋士たちの度肝を抜いた。AIの読みをも上回る恐るべき読み筋に「強すぎる!」という驚嘆の声が上がった。

 この記事、コンピュータ将棋の仕組みを知らない人が読むと、「AIですら予想できなかった手を藤井君が指した」と思ってしまいがちですが、実はそういうことではありません。今回はこの真相を解説していきたいと思います。

評価値とは!?

 以前の記事「AI研究者の視点:藤井聡太はAIに勝てるのか?(2)」で解説しましたが、将棋ソフトは形成判断に「評価関数」というものを使います。つまり、ある局面の状態を入力すると、その時の有利不利を「評価値」として出力するような評価関数をあらかじめ作っておくわけです。

 評価値の値は有利不利が分かれば何でもよく、ソフトによって同じ尺度である必要はありません。ただし、コンピュータチェスの世界では、将棋の歩に相当するポーン1つ分の価値を1点(もしくは100点)と定め、先手側がポーン1つ分の差に相当する有利度なら+1点(もしくは+100点)、逆に後手側がポーン1つ分の差に相当する有利度であれば−1点(もしくは−100点)といった評価値が一般的に使われていました。コンピュータ将棋でもチェスにならって、歩1枚の価値をおよそ100点と定めた評価値が一般的です。

実質的な評価値≠生の評価値

 さて、コンピュータ将棋の話題ではしばしば「今の局面の評価値は+200点だ」といった表現がなされます。ここで大事なのは、厳密には「ソフトはその時の局面の評価値をそのまま表示しているのではない」ということです。

 ここで話を混乱させないために、ある局面を評価関数に与えた時に出てくる値を、その局面の「生の評価値」と呼びたいと思います。これに対してソフトの画面上に出てくる評価値を「実質的な評価値」と呼ぶことにします。要は、実質的な評価値と生の評価値は同一ではないということです。

 何故かを説明しましょう。例えばある局面A(先手番とする)の生の評価値が−200点(後手有利)だったとします。これはあくまでその時の局面Aの盤面の駒の数や配置から統計的に計算したもので、先を読んでいるわけではないのです。

 例えば、局面Aで後手の飛車が浮き駒で先手がすぐに取れる状態であったとします。ここで先手が飛車を取った時を局面B(後手番)とすると、局面Bの生の評価値は+500点(先手有利)とひっくり返ることになります。となると、そもそも局面Aは後手有利ではなく先手有利だったと考えるべきですし、局面Aの評価値も+500点であると考えるべきでしょう。

 このように、ある局面の生の評価値と、先まで読んだ時の実質的な評価値は異なるわけです。将棋やチェスのようなボードゲームでは、ある局面の実質的な評価値は、そこからお互いに最善を尽くしたと仮定した場合に可能な限り先まで読んだ際の評価値とするようになっています。ソフトもこの実質的な評価値を、その局面の評価値として表示しているわけです。

 これは、先手番に対しては可能な限り評価値が最大化するように読み、後手番に対しては可能な限り評価値が最小化するように読むため、アルゴリズムの名前としてMinimax(ミニマックス)法と呼ばれます。

藤井七段のケースでは?

 さて、冒頭の藤井七段のケースですが、AIが悪手と判断したというのは、コンピュータが悪い評価値をつけたということで、これは「互いに最善手を尽くした場合に悪手となりうる」と解釈すべきです。

 ですが、人間同士の対局では「互いに最善手」という前提がそもそも非現実的です。今回のように、大駒を切って流動的な局面になると、守る方は最善手を指し続けるのが困難になるというのはよくあることです。

 チェスの世界でも、かつての世界チャンピオンであるボビー・フィッシャーは、華麗なサクリファイス(自分の駒を犠牲にし割損な交換をした上で勝つ)で数多くの名局を残していますが、最新のソフトで解析してみると実はコンピュータ的には悪手だったということが多いです。しかし、人間相手であればそのような手が効果的だったりするのです。

 今回のケースも、相手がコンピュータで最善手で守り続けていれば勝負は分からなかったのかもしれませんが、単純に評価値だけで勝負が決まらないところに人間同士の対局の面白さがあると勉三は考えています。

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posted by 勉三 at 00:00 | Comment(0) | 時事
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