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2018年06月01日

AI研究者の視点:藤井聡太はAIに勝てるのか?(3)

 ども勉三です。前回前々回に引き続き、「藤井聡太はAIに勝てるのか?」というテーマでお送りいたします。

指し手決定のメカニズムその3:データベース

 「探索」「評価関数」に続く第三のメカニズムは「データベース」です。要は、「ある局面での最善手が既に知られているなら、それをデータベースとして持っておいて参照すればいいんじゃね?」という発想に基づくものです。

 本来、将棋の可能な局面の数は無数にあり、このアプローチはいつでも適用できるというわけではありません。しかし、序盤の定跡はそれほどパターンの数は多くなく、長い歴史の中で棋士によっておおよその最善手は分析されているので、それら全てをデータベースとして持っておけば最善手を指すことができます。

 これは人間も同様で、定跡に関しては考えるのではなく記憶で指しているはずです。それが脳の中のデータベースなのか、ハードディスクの中のデータベースなのかの違いだけです。ただし、人間は全ての定跡を丸暗記することは難しいですが、コンピュータにとっては造作もないという点は大きな違いかもしれません。

 余談ですが、コンピュータチェスでは序盤だけでなく終盤にもデータベースが威力を発揮します。チェスではどんどん盤上から駒が消えていくのですが、6駒以下の場合は既に完全解析されており、最善手がデータベース化されているのです。ですので、このデータベースを搭載したチェスソフトには、どんなに強い人でも逆転勝ちはできないということです。

指し手決定のメカニズムその4:推論

 さて、ここまで指し手決定のメカニズムとして「探索」「評価関数」「データベース」の3つを取り上げました。最後の4つ目は「推論」です。

 「探索」「評価関数」「データベース」に関しては、人間もコンピュータもどちらも用いている方法だということは既に述べた通りです。しかし「推論」だけは例外です。これは現在のところ人間にしかできません。コンピュータはまだできないのです。そして、これこそが本題である「藤井君はAIに勝てるか?」の最大の論点でもあります。

 推論とはどういうものなのでしょうか? これは囲碁のシチョウを考えるのが一番分かりやすいです。シチョウについて知らないかたは wikipedia の記事をご一読いただければと思います。概念は非常に簡単なのですぐに分かるかと思います。

 シチョウでは、同様の手順をどんどん繰り返していけば、最終的には盤の端に到達して逃げられなくなり、囲まれて取られてしまうというものです。この「同様の手順をどんどん繰り返していけば」という部分。人間には簡単なことなのですが、実はコンピュータは大の苦手なのです。

 なぜなら、コンピュータにとっては盤面が違えば全く別の局面ですし、人間にとっては同じ手順を繰り返しているだけのつもりでも、それが同じ手順であることは理解していないのです。ゆえに、コンピュータがシチョウで石の生き死にを判定しようと思うと、かなり先まで正攻法の探索で読む必要があります。1手ごとに可能な着手点をしらみつぶしに全て検証しないといけないため、計算量が爆発的に増えてミスをするのです。

 今ではこの問題にもある程度対処がされているようですが、コンピュータ碁にとってシチョウが苦手だということは今も変わりがないようです。

コンピュータの推論の弱さをうまく突けば、人間にも勝機が

 コンピュータチェスは実は終盤の方が苦手だったりします。「え?さっき6駒以下は完全解析されていると言ってたじゃないか」と思うかもしれません。それはその通りで、6駒以下だとコンピュータには勝てないのですが、それより少し駒数が多いぐらいの局面がコンピュータは苦手なのです。

 何故かと言うと、チェスの終盤はクィーン(飛車+角の動き)がいなくなり、またルーク(飛車の動き)も全ていなくなって、ポーン(歩)とナイト(八方に動ける桂馬)とビショップ(角)とキング(王)だけになったりします。こうなると、駒が少なくなって解析は楽になるんじゃないかと思われるかもしれませんが、手数が伸びるので、逆に解析しづらくなるのです。チェスでは終盤になると何十手も盤面の駒の総数が変わらないということも珍しくありません。

 そもそも、6駒以下でわざわざデータベースを使わないといけないのも、対局中に正攻法で探索していると非常に時間がかかるからなのです。だからあらかじめ時間をかけて解析した最善手をデータベースにしているわけです。

 囲碁のシチョウや、チェスのエンドゲーム(7駒以上)の共通点は「人間には当たり前の単純な変化だが、手数が長い」というところにあります。これはコンピュータには推論ができないからです。推論なしで、探索+評価関数+データベースだけでも人間を遥かにしのぐまでに強くなってしまったから、わざわざ推論など実装しなくとも良かったという事情もあるのですが、隙があるとしたらここでしょう。

 3回に分けて長くなりましたが、そもそものテーマである「藤井君がAIに勝てるかどうか」は、推論というコンピュータの弱点をうまく突けるかどうかにかかっているのではないでしょうか。うまく突けるのであれば、勝機はあるだろうと勉三は考えています。

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posted by 勉三 at 20:00 | Comment(0) | 時事
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