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2018年05月20日

AI研究者の視点:藤井聡太はAIに勝てるのか?(1)

 将棋の藤井聡太君が早くも7段になったことが話題になっていますね。将棋の段位はプロ入りすると4段となり、上は9段まであるわけですが、高校生にして早くも上半分に到達してしまいました。今後はタイトルも期待でき、将来が増々楽しみなところです。

人間と人工知能(AI)の攻防史

 さて、今回のテーマは「藤井君はAIに勝てるのか?」ということです。チェスでは、1997年にIBMの開発したディープブルーというスーパーコンピューターと、当時の世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフ氏が対局し、6戦やってカスパロフ氏が1勝2敗3分とコンピュータに敗北し世界中が大騒ぎになりました。

 「チェスで機械が人間を上回ったのだから、将棋も同じことだろう」と思うかもしれませんが、ことはそれほど単純ではありません。チェスは取った駒はゲームから除外されるので、対局が進むにつれて盤上から駒の数が少なくなっていきます。そのため、どんどん1手あたりの可能な指し手は減っていきます。これに対して、将棋では取った駒を再利用できるというルールがあるため、対局が進んでも駒の数は減りません。そのため、総当たりで探索しようと思っても、可能な指し手が天文学的な数になってしまうのです。

 ところが、最近になって Google の開発したアルファ碁という人工知能が、囲碁のトッププロを相手に無双するという大事件が起きました。囲碁は将棋やチェスと比べると遥かに盤面が広く、可能な指し手の数も桁違いなので、囲碁でコンピューターが人間を追い抜くのは将棋よりもさらにずっと後だと考えられていたのですが、これでその前提は一気に崩れました。

 今のところ、将棋でAIがトッププロよりも明確に強いという証拠はありません。チェスや囲碁のようにトッププロとの直接対決の機会があれば結論しやすいのですが、将棋連盟はそういった機会を設けていません。将棋で言えば、羽生名人とAIが7番勝負をして、AIが勝ち越せば「ああ、本当にAIの方が強くなったんだな」と皆が納得できるでしょうけど、今のところまだその機会は設定されていません。

 しかし、羽生さんでなくとも既に多くのトッププロがコンピュータ相手に敗れており、大方の見方では既に将棋もコンピュータがトッププロを上回っていると考えられています。

藤井君はAIに勝てるか?

 本題に戻りましょう。藤井君は果たしてAIに勝てるか? 機械学習やAIの研究者であった勉三の意見では、可能性は十分にあると考えています。その根拠を説明しましょう。

 そのためには、まず人間とコンピュータはどのように指し手を決めているのかを知っておく必要があります。将棋やチェスの対局時に自分の手番にどの手を指せば良いかを決める方法として、4つのアプローチがあります。

指し手決定のメカニズムその1:最も基本となる「探索」

 まず、最も基本となるアプローチが「探索」です。これは実際に頭の中で駒を動かして、「自分がこう指したら盤面はこうなって、その時に相手がこう指して来たら盤面はこうなって…」といった具合にシミュレーションすることです。初期のコンピュータチェスやコンピュータ将棋はほぼこのアプローチに頼っていました。

 将棋の1手番あたりの可能な指し手の数は平均して約80通りと言われています。人間であれば80通りを全て探索するのは難しいですが、コンピュータにとっては容易い事です。しかし、これも2〜3手先までならよいのですが、それ以上になると爆発的に計算時間増えることになります。1手進むごとに探索は枝分かれしていくためです。

 仮に80通りシミュレートするのに1ミリ秒(1000分の1秒)かかるとしましょう。2手先になると、1ミリ秒に80を掛けて80ミリ秒。3手先ならさらに80を掛けて6400ミリ秒(6.4秒)。これぐらいまでならまだ余裕です。

 しかし、4手先になると512秒(約8分)、5手先になると約11時間です。このあたりで実用的には限界でしょう。コンピュータ将棋で待ち時間11時間なんて飽きてしまいますよね。

 これが終盤で5手先までに決着がつくケースであれば問題ありません。必勝の指し手が見えればそれ以上は探索する必要がありませんから。なので、初期のコンピューター将棋は、終盤の詰みが見える局面では非常に強いものの、序盤や中盤は非常に弱いという特徴がありました。

 しかし、人間は当時のコンピュータと比べても探索能力は遥かに劣るわけですが、コンピュータより遥かに強かったわけです。なぜでしょうか? それは人間は探索以外のアプローチも使っているからです。長くなりましたので、次回は残る3つのアプロ―チについて解説したいと思います。

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posted by 勉三 at 12:24 | Comment(0) | 時事
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